1878年、第3回目となったパリでの万国博覧会。そこでは中世イスラム文様の工芸品がずらりと並んでいたといわれる。当時、ジャポニスムとともに流行していたのが歴史主義であった。歴史主義といっても思想的な歴史主義ではなく、芸術様式としての歴史主義である。特にオーストリアやドイツなどで流行し、古代ローマやギリシャをモチーフした新古典主義とは異なり、歴史主義は手作業により応用美術品が作られていた中世イスラムから18世紀のバロック・ロココまでの傾倒であった。芸術様式としては停滞期である一方、アール・ヌーヴォーへの影響へもつながった。

出典:アドリアン・デュブーシェ国立博物館
コモスクランプ ブロカール 1880年
中世イスラムガラスの再現。
【その他代表的なガラス工房】
ロブマイヤー、インベルトン、エミール・ガレ、フリッツ・ヘッケルトなど

出典:クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館
花瓶 1870年代
い英国ミントン窯によるイスラム趣味の花瓶。
イスラム文様
歴史主義で最も顕著だったのが中世イスラム芸術の再現であった。工芸全般にその影響はみられ、特にドイツやオーストリアが顕著であったが、英国ウィリアム・モリスの図柄がイスラムの影響を受けているのはそのデザインから明らかであるように英国でもその影響は大きかった。
ガラス工芸で活躍したのがオーストリアのガラス工房ロブマイヤーであった。中世イスラムを再現したエナメル彩色は芸術を極め、高い評価を得た。また18世期のバロック・ロココ様式のグラヴィール装飾やエナメルのガラスも製造した。パリでも流行し、ガラス工芸家のブロカールやインベルトンなどが活躍し、ガラス界におけるエナメル装飾の流行へつながった。イスラム文様はイギリスの磁器や銀器などにもみられ、陶磁器工房のロイヤル・ウースターやミントンなどもこの時期にイスラム趣味の作品を多く製造した。
中近世ガラスの再現
中世イスラムの後に流行していた16世紀~17世紀のヴェネチアンガラスの再現も積極的に行われた。イギリスのガラス工芸ではホワイトフライアーズのジェームズ・パウエルがヴェネチアンガラスを再現し高い評価を得ていた。フランスでも、エミール・ガレが初期のころにヴェネチアンスタイルのガラスを製造していたことが知られている。また17世紀末から18世紀に流行したバロック・ロココのガラスの再現も流行した。ツイストステムやサンドイッチガラスの再現、ドイツやオーストリアでは紋章がデザインされたフンペンを模したガラスが流行した。

出典:メトロポリタン美術館
花瓶 1880年頃
ジェームズ・パウエル(James Powell & sons)によるヴェネチアンスタイルの花瓶。イギリスでは中世ヴェネチアンガラスの応用が流行していた。
歴史主義は中世工芸品の復刻や系統の要素が強く、たまに中世に製造されたものと間違って紹介されてしまうこともある。アンティーク市場でも多いジャンルの1つである。また、復刻といっても偽物とは異なり、1つの芸術様式として評価されている。中世の手作業による優れた製品を忠実に再現することを模索しているため、全体的に技術が高いのが特徴といえる。
【参考文献】
『ボヘミアン・グラス600年の輝き』(日本テレビ放送網、プラハ国立工芸美術館、1994年)
『WHITEFRIARS GLASS』(Richard Dennis Pubns、1996年)
『Le Genie Verrier De l’Europe』(Flammarion、1998年)
『ORIENTALISIERENDE GLASER J.&L. LOBMEYR BAND I』(Waltraud Neuwirth、1981年)